それはいつもの任務帰りのことだった。今日の任務はさほど疲れるものでもなかったからか、7班の部下たちは比較的体力に余裕があり、元気にはね回っている。お前らは元気でいいねえ、などとぼんやりとその背中を見つめていたカカシだったが、ふと、サクラがカカシの所までやってきて聞いてきた。

「ねえねえ、カカシ先生の誕生日っていつなの?」

なにを聞いてくるかと思えば誕生日か、年頃の女の子は人の誕生日を聞きたがるもんなのかねえ。だがカカシはそんなサクラの問いをはぐらかすかのように問い返した。

「なによ、なんか企んでんの?」

「別に企んでないわよっ、誕生日くらい聞いたっていいでしょ!」

問いかけに問いかけで返されてサクラはふくれた。

「なんだよっ、カカシ先生自分の誕生日知らねえのか?俺だって自分の誕生日くらい知ってるぜっ!だっせえなあ。」

ナルトに馬鹿にされた。
カカシはははは、と笑って言ってやった。

「ちなみにナルトの誕生日はいつなんだ?」

「10月10日だってばよっ。」

「サクラは?」

「3月28日よ!」

「サスケは?」

「...7月23日だ。」

3人の誕生日を聞き出したカカシはなるほどな、と頷いてからにっこりと微笑んだ。

「お前ら知ってるか?誕生日ってのはな、敵に知られると呪術でもって呪い殺されるんだぞ。誕生日とその人物の名前、あとは髪や血液なんかがあるとベストだな。つまりだ、俺は今ならもれなく遠くからでもお前ら全員殺せるってわけだ。分かったらちゃんと家に帰って呪い返しの札を取り付けろよ?」

語尾にハートマークが付きそうな勢いのカカシに少々引きながらもナルトが反論する。

「う、うそだってばよっ!」

「そうよそんなのでたらめよっ。そんなこと言われたら誕生日が知られている人全員すぐに呪い殺されてるじゃないのっ。」

「サクラ、お前わざわざ敵に誕生日を教えてまわってるのか?お前の誕生日を知ってる奴はみんな木の葉の奴らばっかりだろう?」

「そ、そりゃそうだけど、でも納得できないわよ。」

「世の中にはな、納得できない不条理なことが山ほどあるんだぞ。そんな中でお前たちは忍びという尤も過酷な職業を選んだ。だが俺はお前たちを誇りに思う、そんな過酷な環境の中でもお前たちは日々成長している。お前たちは俺の大切な仲間だよ。」

「かっ、カカシ先生っ!!」

ナルトが感激してカカシに抱きついてきた。

が、そんな三文芝居に騙されるのはナルトくらいなものである。残りの二人はまたはぐらかされたと思ってため息を吐くのだった。
それからカカシとナルトたち3人は街の中で別れた。カカシは報告書の提出のために受付へとやってきた。そして今日の報告書を提出してやれやれと肩を叩く。その時、廊下からイルカが受付に入ってきた。が、カカシの姿を確認して一歩下がった。

「おやおやイルカ先生、ご苦労様です。これから受付ですか?」

「い、いえ、もうすぐ上がりですが。」

視線を合わせないイルカにカカシはふ〜ん、と上から下までじっくりと見てからにこりと笑った。

「いくらアカデミー勤務で子どもと格闘する立場と言え、うしろを取られて転んじゃだめですよ?そしてそれを悟られるような恰好のままで人の前に立ってはいけません。」

ぎく、としてイルカはぱっぱっと、前を払った。これでは事実だと言っているようなものだが、なんともイルカらしい行動だった。

「じゃ、失礼しますね〜。」

カカシは笑顔のまま、受付から出て行った。その背中に向かってイルカはため息を吐いた。
いつもこうだ、何故かカカシは自分に対して意地が悪いような気がする。いや、現に意地悪だと思う。悪意の籠もった意地悪ではないし、まあ、言われていることは大体がイルカ自身のためになることだったりするのだが、もう少し言いようがあるだろうにと思う。
これが他の人たちも同様と言うならばまあ、そういう性格なのだろうと納得もできるのだが、意地悪な態度を取るのは決まってイルカだけだった。俺は何かやらかしたか?とも少し悩んだ時期もあったがまったく思い浮かばず、そしてそんな状態がずっと続いているのでなんとも落ち着かない、と、言うかちょっとどうにかしてほしい。
イルカは受付の自分の席に着くとため息を吐いた。そして隣にいた同僚に聞いた。

「なあ、俺ってカカシ先生に何かしたかな?」

だが同僚もそんなのわからねえよ、と苦笑した。まあ、自分は滅多に任務にも出ないし、カカシと共に任務に就くこともないだろうし、接点と言っても元生徒のことで話す以外はないのだし、さほど問題はないのだろうがそれでも何か腑に落ちない。
イルカは受付の仕事を終えると晩飯を食うために一楽へと向かった。
はたしてそこには見知った先客がいた。ナルトである。
イルカはのれんをくぐると親父にしょうゆ一丁、と注文した。

「よおナルト、今日は任務早く終わったみたいだな。」

イルカの登場に、麺をすすっていたナルトがまあなっ!とラーメンの汁を飛ばして言ってきた。俺ってば活躍しちゃったからねえ、などと大袈裟に任務話を始めた。
イルカはそんなナルトの話しを相づちを打ちながら聞いた。

「でさ、でさ、帰りに誕生日の話しになったんだってばよっ。けどカカシ先生は自分の誕生日も知らないんだぜ。」

「は?それはいくらなんでもないだろう。忍者登録の時に必要になってくるんだから。」

「あー、違った。知らないんじゃなくて教えてくれないんだってばよ。なんだっけかな、敵に知られたら呪い殺されるからって。でもって俺たちの誕生日はちゃっかり聞くんだぜ。なあイルカ先生、呪い返しの札って本当にあるのかってばよ。」

少し不安げに、だがそれを気付かれまいとナルトはやや引きつった笑みを浮かべてイルカに聞いてきた。

「は?呪い返し?聞いたことねえぞ。カカシ先生に一杯食わされたんじゃねえのか。」

イルカのにやにやした顔にナルトはむっとしてカカシ先生め〜!と拳を握った。

「イルカ先生、カカシ先生をぎゃふんと言わせるためにもカカシ先生の誕生日がいつか調べてくれってばよ。」

「調べるって、個人情報を勝手に調べるわけにはいかないからなあ。ま、上忍師の先生方に会ったら聞いといてやるよ。」

イルカの言葉にナルトはやっと怒りを静めたのか、頼むってばよ!と言って再びラーメンを食べ始めたのだった。
やがてイルカのラーメンも運ばれてきて、二人は仲良くラーメンをすすったのだった。